そうこうしているうちに、いよいよ、東京から広島県山県郡安芸太田町へ11月に移住しました。そもそも、この移住のためにホームベーカリーを始めたのです。いよいよ本番の始まりです。

移住したところは安芸太田町の山間部で、標高はおおよそ750mぐらいあります。11月頭に引っ越したのに、この地はすでに東京の12月後半の寒さ。東京のイチョウの黄葉が真っ盛りのころの気候です。

このような気候の中、さっそく食パンを焼いてみました。そうすると、想定通り?というか、東京で焼いていた時より焼き上がりの膨らみが大きかったのです。その後すぐに、東京での経験をもとにドライイーストの量を計量スプーン1/2から1/3に減らし、問題なく焼けるようになりました。

しかし、この地の寒さは、11月後半の早朝には-5℃を記録するなど、東京の比ではありませんでした。さらに貸していただいた家は、断熱材が普及していないころに建てられた 木造の家です。室温も時には0℃近くまで下がります。

寒さが厳しくなるにつれて、食パンの焼き上がりはさらに大きくなってきました。結局、この後、イースト菌の投入量をさらに減らし、計量スプーン1/4とマニュアルの記載にたいして半分の量を投入することで、ちょうどよい大きさに膨らむようになったのです。

それともう一つ変化がありました。パンの味が微妙に変化してきたのです。あれほど選んで決めた小麦粉「春よ恋」ですが、目標としているアンデルセンの長時間発酵食パンの味から少し離れてきたのです。まずくなったというより、より異なった味になったという感じです。

そこで、東京の時に試してランク2に選定した、「春よ恋ブレンド」と「ゆめちから」を試してみることにしました。

結果はというと、「春よ恋ブレンド」は「春よ恋」とあまり違いのない味でしたが、「ゆめちから」はドンピシャリ、今までの中で一番アンデルセンの長時間発酵食パンの味に近くなったのです。

この「ゆめちから」、国産小麦の強力粉としては最強のグルテン保有量らしいのです。移住してきた地、安芸太田町小板の寒い気候でのパン焼きで、イースト菌の発酵とグルテンのバランスが最もよくなったのかもしれません。

きめ細かい歯ごたえのあるパン生地に、小麦本来の甘みが前面に出てくるのです。この甘みは砂糖の添加では出せないパン独特の甘みです。ようやく、求めるアンデルセンの長時間発酵食パンの味・食感に近い食パンを得ることができました。 移住することで、求める食パンの味・食感が得られるとは嬉しい誤算でした。

こうして着想から2年近く、一番近いアンデルセンまで50km強の移住先で、アンデルセンの食パンに近い味の食パンを、アンデルセンの食パンの6割ぐらいのコストで毎日食べられるようになったのです。