安芸太田町小板に移住後しばらくは、新たな住処を住める状態にすることに追われ、キャンプ場の整備に全く取り掛かれていませんでした。

そのような状況の中、安芸太田町地域おこし協力隊のUさんから、隣町の北広島町のオークガーデンという温泉リゾートでチェーンソーの講習会があるという連絡をいただき、その講習を受けることにしました。費用は一人500円と格安で、Uさんから教えていただいた電話番号に連絡して申し込みました。

講習会の前半の座学はオークガーデンの貸会議室?で、後半の実技は隣接したNPO法人西中国山地自然研究会が「せどやま再生プロジェクト」のために所有しているらしい丸太の加工場で行われました。

このせどやま再生プロジェクトとは最近少し広がり始めた木の駅プロジェクという概念に近いものです。簡単にまとめると、自分の山林にある小径木や間伐材を、軽自動車と普及型チェンソーさえあれば搬出できる2m程度の長さで伐って、このプロジェクトに持ち込めば、買い取り手がほとんどいないそのレベルの丸太を地域通貨で買い取るというものです。そして、その買い取った丸太を薪やシイタケ栽培用の原木に加工して販売し、地域経済の活性化と山林保全の二つを同時に狙うというものです。

今回のチェンソー講習会は「せどやま安全講習会(チェンソー講座)」というタイトルで、このせどやま再生プロジェクトに伐木を持ち込む人やこれから持ち込みたい人向けに、その作業の安全性を高める狙いで開催されたものでした。また、私がここにきて初めてせどやま再生プロジェクトを知ったように、せどやま再生プロジェクトのことを知る人を増やす目的もあるようです。

前置きはこれぐらいにして本題に移ります。

移住前にコマツ教習所で厚生労働省が定める伐木の特別教育を受けていたので、この講習会のことを聞いたとき、内容が重複しているので受講する必要はないだろうと最初は思いました。しかし、特別教育では実習が少なかったとも感じていて、伐木ではなくチェンソーの講習であるなら、チェンソーの実習に的を絞ってもう一度練習ができるのではと思い直して、この講習会を受けることにしました。また、移住してきたばかりで、新たな地域の人たちと知り合えるきっかけになるかもしれないとの思いもありました。

そして、講習会の当日です。講師として紹介されたのは、隣接する廿日市市にあるS林業のS社長でした。午前の講義はチェーンソーの危険性と安全装備に的を絞った講義で、その限りにおいて伐木の特別教育の内容を超えるものではありませんでした。しかし、 S社長 は特別教育になかった特別のものを見せてくれました。それは実際に事故が起こって壊れた安全装備です。伐木の時に倒れてきた木に当たって割れたヘルメットや、チェーンソーで切れた林業用ブーツや防護パンツです。そこに、 S社長 の実体験の解説が添えられるのですから、これは強烈なインパクトです。

もともと、定年後に初めてチェンソーを使うので、特別教育を受けてから、安全装備を正しく装備して伐木をするつもりでいましたが、この壊れた安全装備を見たことにより、未だにちょっとしたチェンソー作業でも、面倒がらずヘルメットとチャップス(ズボンの上につける防護装備)、林業安全靴、林業用手袋を装備しています。良い癖をつけることができたことに感謝です!

そして、その後、実技に移りました。こちらも、特別教育とは異なり、ソーチェーン(チェンソーの刃)の目立て(刃を研ぐこと)の重要性に的を絞られた講義でした。一般的に、ソーチェーンは丸ノコなどの電動工具の刃のようなチップソー (刃先部分に超硬チップをつけて刃研ぎレスの使い捨て化を実現したもの) 化がされていません(チップソー化されたソーチェーンもあるようですが、高価な割には長持ちしないのが現実らしいです)。昔ながらのノコギリみたいなものです。そのため、ある程度伐ると刃が摩耗して切れ味が極端に落ちてきます。伐れないソーチェーンで強引に伐ることも事故につながる要因です。そのため、切れ味が落ちかけたときに目立てをすることが非常に重要になるのです。

ところが、田舎のホームセンター等に行くと普通にチェンソーは売られています。日用品に近い扱いです。当然、取扱説明書には目立ての重要性は書かれていますが、身近に売られている製品だからでしょうか、目立てをせずにそのまま使い続けいている農家の方などが結構多いらしいです(あくまで人から聞いた推測です)。 S社長 は、そのような状況を踏まえておられたのでしょう、目立てに的を絞った講義をされました。

講義はまず、目立ての考え方の解説があり、次に使いこまれてきれなくなったソーチェーンで直径30cm程度の丸太を伐ります。そのあと、そのソーチェーンを目立てし、その出来具合を S社長 が点検。点検で合格がでたら、目立て後のソーチェーンで先ほど切った丸太を再度伐ります。

するとどうでしょう!なんという切れ味の違い。目立てをする前は、チェーンソーを丸太に押し付けてもなかなか刃が進まなかったのですが、目立て後はチェーンソーのバーを丸太の上に置くだけで、勝手に伐れていくよう感じになったのです。切るのに要した時間も半分ぐらいになった感じです。

教習所の特別教育でも、目立ての説明と実技はありその重要は強調されていました。しかし、目立てをした後の切れ味の良いソーチェーンでの伐木実技しかありませんでした。定期的にそれなりの回数を行う特別教育なので、伐れなくなったソーチェーンを用意することが現実的に困難だからでしょうか? この目立て前後のソーチェーンの切れ味を比べるという内容が、厚生労働省が定める特別教育には組み込まれていないようです。

もう少しすると、チェンソーを買って実際に伐木を開始します。その時に改めてこの講義の内容を思い出して作業にあたりたいと思います。